主語を六つのカテゴリーで捉える
英語と同様にスペイン語でも、文の主語は六つのカテゴリーに分けて捉える。
- 発話者自身である第一人称で、単独の場合と二者以上の場合
- 発話の相手である第二人称で、単独の場合と二者以上の場合
- それ以外の存在である第三人称、単独の場合と二者以上の場合
全部で六つのカテゴリーを考える。
言い換えると...
- 自分・自分たち
- 相手・相手ら
- 「自分(たち)+相手(ら)」以外(単数・複数)
...の六つのカテゴリーだ。
スペイン語では丁寧に扱う相手は、第三人称で処遇する
ただし、スペイン語では「相手(ら)」のカテゴリーを、「自分と同等あるいは目下」と「自分より目上」の二種類に分けて捉え、「自分より目上」の「相手(ら)」は第三人称のカテゴリーで扱う。さらに、単数と複数の区別があるから、英語の "you" は四つのカテゴリーになる。
日本語の「あなた」も元は「彼方」(あちらのほう)が転じて、第三人称の人物を指す言葉だったものが、第二人称を指すのに使われるようになったものだ。
「私たち」「君たち」「彼ら・彼女ら」に性別がある
英語の "we" 、複数の "you"、"they" に相当する代名詞には、男性・女性の形がある。一人でも男性が入っていれば男性複数の形をとる。女性複数は女性のみの場合。
英語の"it"、人間以外の "they" に相当する代名詞はスペイン語にはないので、何も言わない。
スペイン語の第三人称の主語は、代名詞の他、固有名詞や一般名詞がありえる
主語と同様に、第一人称と第二人称については主格代名詞のみが主語となりえる。英語と同様に第三人称の主語には代名詞の他にもさまざまな名詞がありえる。
日本語には英語やスペイン語のような主語がない
日本語には英語やスペイン語のように「人称ごとに決まった主語」、「動詞を支配する主語」というものはない。日本語にそういう概念がないということは、日本語を母語とする学習者にとっては、そのような概念を習得することが難しいわけだから、気をつけて勉強していかなければならない。
例えば自分のことを指して言うのに「私(たち)」以外にも、「俺(ら)」「僕(ら)」や「自分(ら)」、「先生(たち)」「本官(ら)」「お母さん(たち)」「お父さん(たち)」などの役割を指す言葉、さらに「アキ子」「一郎」といった自分の名前、など、さまざまな名詞が使われる。
相手を指して言うのにも「あなた(がた)」や「君(たち)」以外に「皆さん」とか、「先生(がた)」「お母さん(たち)」「お父さん(たち)」などの相手の持つ役割を指す言葉、さらに「アキ子」「一郎」といった相手の名前、など、さまざまな名詞が使われる。
英語やスペイン語のような「主格人称代名詞」という概念が日本語にはないのだ。
ちなみに「あなた」という言葉はしばしば英語教育において "you" の訳語として用いられるが、日本語で「あなた」という言葉を使うことは稀だ。実際には相手によって「先生は」「〜さんは」「〜君は」「お客さんは」など具体的に相手を指す名詞を使って相手に呼びかけたり、相手について語ったりする。これはまさに、日本語に主格人称代名詞という概念のないことの証左であると言える。